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千葉地方裁判所 昭和52年(ワ)478号 判決 1981年3月10日

原告

加戸俊哉

ほか一名

被告

千葉県

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告加戸俊哉に対し金一〇七万七、三五四円、原告加戸佐和子に対し金七二万二、三五四円及びこれらに対する昭和五一年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。但し、被告らが各自原告加戸俊哉に対し金一〇七万七、三五四円、原告加戸佐和子に対し金七二万二、三五四円の各担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告加戸俊哉に対し金一、六一九万四、二七三円、原告加戸佐和子に対し金一、四三九万〇、八〇九円及びこれらに対する昭和五一年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(被告千葉県)

3 (仮定的に)仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

訴外加戸靖爾(以下、亡靖爾という。)は、昭和五一年一〇月九日午後一時二〇分頃、千葉市誉田町三丁目四一番地先県道(以下、本件道路という。)を国鉄誉田駅方面から千葉市内方面へ向け帰宅のため自転車で進行中、訴外近藤豊(以下、近藤という。)運転の原動機付自転車(千葉市い第一、七六一号。以下、加害車という。)に衝突され、頭蓋骨々折により即死した。

2  原告らの地位

原告加戸俊哉(以下、原告俊哉という。)及び同加戸佐和子(以下、原告佐和子という。)は、亡靖爾の父母である。

3  被告門脇隆(以下、被告門脇という。)の責任

被告門脇は加害車を所有してその経営にかかる新聞販売の業務に使用し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく運行供用者責任がある。

4  被告千葉県(以下、被告県という。)の責任

(一) 本件道路は千葉県道で被告県がこれを管理している。

(二) 本件道路の幅員は約五・二メートルであるが、その両側端を約〇・四五メートル幅の排水路にとられ、更に亡靖爾の進行方向左側の排水路の内側に約〇・四五メートルの幅をもつて、千葉県土木事務所が訴外株式会社斉藤工務店(以下、訴外工務店という。)に請負わせて施行中の道路排水局部改良工事(以下、本件工事という。)がなされており、実際の有効幅員は僅か約三・八五メートルであつた。そして、右工事中の部分は、当該工事により路面が掘削され、掘削後簡易舗装が施されていたが、同簡易舗装部分と既設路面との間には、深さ約二センチメートルから五センチメートルにわたつて段差が生じていた。

(三) 右の状況下においては、本件道路の歩行者又は通行車両が、右段差に足又は車輪をとられ、転倒又はスリツプ等して不測の事故に至る危険性が十分にあつたのであるから、被告県としては、防護柵を設置させる等してかような事故の発生を防止すべきであつたにもかかわらず、僅かに部分的に右工事部分に縄張りを施したのみで他に何らの措置も講じないまま放置していた。

(四) 亡靖爾は、本件道路の左側端を自転車で進行中、その車輪が前記簡易舗装部分に落込んだため、ハンドルがぐらつき、体勢を整えるべく道路中央に出たところ、折柄対向してきた近藤運転の加害車と衝突し死亡するに至つたものである。

(五) 本件道路には、前記のとおり道路として本来有すべき安全性を欠いた瑕疵があり、この瑕疵と近藤の前方不注視の過失とが競合して本件事故の発生に至つたものであるから、被告県は、本件道路の設置、管理者として国家賠償法二条に基づく責任がある。

5  損害

(一) 逸失利益 各金一、六八九万一、三七九円

亡靖爾は、昭和三五年一一月一九日生れの健康な男子であつて、本件事故当時満一五歳で高校一年在学中であつた。

そこで、労働省統計情報部の昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表中、男子労働者学歴計欄の「決まつて支給する現金給与額」金一五万〇、二〇〇円及び「年間賞与額その他特別給与額」金五六万八、四〇〇円を基にして、昭和五一年度には、右給与が少くとも前年度より五パーセント以上上昇していることは明らかであるから、右給与額に五パーセントの加算をし、かつ、厚生省第一二回生命表に基づき稼働可能年齢を満六七歳とし、更に、現在の子女を有する家庭における進学率からみて亡靖爾の大学進学が確実であつたことから、稼働開始年齢を大学卒業後である満二二歳とし、生活費の割合を三〇パーセントとみて、ホフマン方式により年五パーセントの中間利息を控除して亡靖爾の得べかりし利益の現価を算出すれば、次の計算式のとおり金三、三七八万二、七五八円となる。

15万0,200円×12=180万2,400円(年間給与額)

180万2,400円+56万8,400円=237万0,800円(年間総所得)

237万0,800円×(1+0.05)=248万9,340円(昭和51年度推定所得額)

248万9,340円×(1-0.3)=174万2,538円(生活費控除後の所得)

22歳-15歳=7(稼働に達するまでの年数)

これに対応するホフマン係数 5.8743

67歳-15歳=52(平均稼働年数)

これに対応するホフマン係数 25.2614

25.2614-5.8743=19.3871(本件に用いるホフマン係数)

174万2,538円×19.3871=3,378万2,758円(逸失利益の現価)

原告らは、相続により右金額の二分の一に当る金一、六八九万一、三七九円宛の損害賠償請求権を取得した。

(二) 慰藉料 各金四〇〇万円

亡靖爾の死亡により原告らが父母としてうけた精神的苦痛は、はかり知れないものがあり、これを慰藉すべき金額としては少くとも各自金四〇〇万円が相当である。

(三) 葬儀費用 金一八〇万三、四六四円

原告俊哉は、亡靖爾の死亡によりその葬儀費用として金一八〇万三、四六四円を支出し、同額の損害を蒙つた。

(四) 弁護士費用 各金一〇〇万円

原告らは、本訴の提起を原告ら訴訟代理人に委任したが、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、少くとも金二〇〇万円が相当である。原告らは、各自右金額の二分の一に当る金一〇〇万円宛の支払義務を負担している。

6  損害の填補

原告らは、本件事故による損害につき自動車損害賠償責任保険金一、五〇〇万一、一四〇円を受領したので、原告ら各自その二分の一に当る金七五〇万〇、五七〇円を各自の損害の填補として充当する。

7  結び

よつて、被告ら各自に対し、原告俊哉は金一、六一九万四、二七三円、原告佐和子は金一、四三九万〇、八〇九円、及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和五一年一〇月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告門脇)

1 請求原因1項の事実は認める。

2 同2項の事実は知らない。

3 同3項中、被告門脇が加害車を保有してその経営にかかる新聞販売の業務に使用し、自己のために運行の用に供していたことは認める。

4 同5項のうち、同項(二)の慰藉料額は争い、その余の事実はいずれも知らない。

5 同6項のうち、原告らが自賠責保険金一、五〇〇万一、一四〇円を受領したことは認める。

(被告県)

1 請求原因1項の事実は認める。

2 同2項の事実は知らない。

3 同4項のうち、(一)の事実は認める。同項(二)中、本件道路の亡靖爾の進行方向左側端に、千葉県土木事務所が訴外工務店に請負わせて施行中の本件工事(但し、正式名称は「道路排水整備工事」)がなされていたことは認めるが、その余の事実は否認する。同項(三)中、僅かに部分的に右工事部分に縄張りを施したのみで、他に何らの措置も講じないまま放置していたことは否認し、その余の事実は知らない。同項(四)中、亡靖爾が自転車で進行中、近藤運転の加害車と衝突し死亡するに至つたことは認めるが、その余の事実は争う。同項(五)は争う。

4 同5項の事実はいずれも知らない。

5 同6項のうち、原告らが自賠責保険金一、五〇〇万一、一四〇円を受領したことは認める。

三  被告らの主張並びに抗弁

(被告門脇)

1 免責

本件事故は、亡靖爾が自転車に乗り左手に本を三冊位かかえ、右手のみでハンドルを握つて上坂を進行中、その進行していた道路の左端付近にあつた段差にハンドルをとられ、バランスを失つてふらふらした状態で対向車線側に飛び出したため生じたものであつて、近藤には、加害車の運行に関し何らの過失もない。また、当時加害車には、構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

2 過失相殺

仮に被告門脇に本件事故の発生につき責任があるとしても、本件事故は亡靖爾の前記過失が要因となつて発生したものであるから、本件事故による損害賠償額の算定に当つては過失相殺がなされるべきである。

(被告県)

3 道路の設置、管理の瑕疵の不存在など

(一) 本件道路は、道路の通常有すべき安全性を具備しており、被告県にはその設置及び管理について瑕疵がない。

即ち、本件工事は、第一工区一〇三メートル、第二工区一五九・五メートルに分けて施行されていたが、本件事故は、このうち第二工区において発生したものである。そして、訴外工務店は、本件事故発生当時、本件工事に関し、右第二工区の起点、終点をはじめその全般にわたり、相当数の工事標示板、バリケード及び注意灯などの保安施設を、本件道路の利用者に一見して認識できる位置に設置していた。前記簡易舗装は、右第二工区のうち、約八〇メートルの区間にわたつて施されたものであるが、簡易舗装後直ちに本舗装を行い完成させたとしても、重量車両の通行等の影響などにより沈下を生ずるという施工上の難点があること、大型車同志が交差する場合等には、右簡易舗装部分を含め道路一杯に使用しなければ交通の渋滞を招くこと、同部分を通行の用から外した場合には、たとえ交差できたとしても、本件道路上の他の通行車両や通行人を危険にさらすことなどを回避するため、右簡易舗装部分と既設路面との間に約二センチメートル程度の段差はあつたが、一時的に車両等の通行に開放したものである。以上のとおり、本件工事現場には、本件道路の通行者をして、工事区間の起、終点の認識、注視及び徐行を促させるに十分な保安施設が設置されており、また、前記段差は、現在の道路事情からすれば、全国随所に見うけられる真にやむを得ない程度の段差であり、本件道路利用者の常識的秩序ある利用方法を前提とすれば、事故の発生に至るような危険なものではなく、かつ、前記簡易舗装部分を通行の用に供したことについても何ら責められるべき点はないから、被告県には、本件道路の設置及び管理について瑕疵がない。

(二) 本件事故と前記段差の存在との間には、相当因果関係は存しない。

亡靖爾は、右段差に自転車を落輪させていない。仮に、落輪させたとしても、亡靖爾は、直ちにブレーキをかけて停止するか、足を着地させて転倒することのないよう万全の措置をとるべきであつたにもかかわらず、その措置をとらず、前方を注視せずに、しかも片手運転で左手に本を持ちながら、道路中央に向つて進行したものであるから、右は、前記段差とは無関係な亡靖爾の自損行為である。

4 過失相殺

仮に被告県に責任があるとしても、右のとおり亡靖爾には重大な過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

被告門脇の抗弁1、2項、被告県の抗弁4項の各事実は、いずれも争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  原告らの地位

成立につき争いのない甲第二号証及び原告加戸俊哉本人の尋問の結果によれば、原告俊哉及び同佐和子は亡靖爾の父母であることが認められる。

三  被告門脇の責任

被告門脇が加害車を保有してその経営にかかる新聞販売の業務に使用し、自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

四  被告県の責任

1  本件道路が千葉県道であり、被告県がこれを管理していること、本件道路の亡靖爾の進行方向左側端に、千葉県土木事務所が訴外工務店に請負わせて施行中の本件工事がなされていたことは当事者間に争いがない。

2  そこで、被告県に本件道路の設置又は管理につき瑕疵があつたか否かにつき判断する。

(一)  成立について争いのない甲第五、第九号証、乙第二号証の一、二、第六、第一一号証、証人福留勲及び同斉藤伸夫の各証言により被告県の主張するような写真であると認められる(本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いはない)丙第一号証の一ないし一四、右斉藤の証言により真正に成立したと認められる丙第三、第四、第七号証、弁論の全趣旨により被告県の主張するような写真であると認められる丙第五号証の一ないし四(本件事故現場付近の写真であることに争いはない)、右斉藤の証言により被告県の主張するような写真であると認められる丙第八、第九号証と右福留、斉藤の各証言及び証人石塚妙子、同末吉利夫の各証言を綜合すれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件道路の名称は、日吉、誉田停車場線であり、車両の通行がかなり頻繁な割に比較的狭隘な道路であること、本件道路は、歩車道の区別のないアスフアルト舗装道路であり、その両端にはそれぞれ幅約四五センチメートルのコンクリート製側溝蓋が設置されていたこと、本件事故当時、本件道路の有効幅員は、右側溝蓋及び後記簡易舗装部分を除き、約五・二メートルであつたこと、本件事故現場付近は直線道路であり、その見通しは良好であること。

(2) 本件事故当時、本件道路には、訴外工務店が被告県から請負施行中の本件工事(正式名称は道路排水整備工事)がなされていたこと、本件工事は、第一工区一〇三メートル、第二工区一五九・五メートルに分けて施行されていたが、本件事故は、このうち第二工区の工事起点内側付近において発生したこと、訴外工務店は、昭和五一年九月一五日、道路の床掘の作業から始め、同月二三日には、本件事故現場付近の前記側溝の蓋掛けを了し、その後、掘削した道路を埋戻し、同月三〇日、右側溝(但し、南東側の)に沿つて、幅約四五センチメートルにわたりアスフアルトの簡易舗装(以下、本件簡易舗装という。)を施したこと、本件簡易舗装部分は、第二工区内の約八〇メートルの区間にわたつて存在していたが、本件事故当時、本件簡易舗装部分と既設路面との間には、本件事故現場の真横付近で二センチメートル、同現場から一〇メートル誉田駅寄りの地点で四センチメートル、最も深い所では五センチメートルの段差(以下、本件段差という。)があつたこと。

(3) 訴外工務店は、第二工区の施工中、同工事の起点、終点付近などに工事標識、同標示板などを設け、また、現に側溝の設置や道路の埋戻などが行われていた工事中の部分には、相当数のバリケードを置き、夜間注意灯を点灯させていたこと、ところが、本件簡易舗装部分については、これを含めて通行の用に供さなければ、バスなどの大型車同志の交差ができず、これに伴う交通の渋滞や危険を避けるため、訴外工務店は、昭和五一年一〇月一日頃、本件簡易舗装部分を一般通行の用に開放したこと、従つて、本件事故現場付近には、事故当事、工事標示板のあるほかは何らの保安施設も設置されていなかつたこと、本件段差は、右の開放に伴う重量車両の通過などにより次第にその深さを増したものとみられること(但し、開放当初の本件段差の度合については、前記斉藤証人の証言中に漠然と約一センチメートルとあるだけで、必ずしも明らかでない。右の証言に従うと、本件事故当時、何故二センチメートルから五センチメートルの程度の異なる段差が生じていたのか理解し難い。)。

(4) 本件工事にあたり、千葉南警察署長は、被告県の出先機関である千葉土木事務所に対し、道路使用の許可条件を付したが、同条件によれば、工事の一工区は三〇メートル以内とし、一工区終了後他の工区に移ることとされていたこと。本件工事の現場代理人である訴外工務店の斉藤伸夫は、右条件を車両の通行を遮断して片側通行させる場合にのみ適用されるものと理解しており、これと本件工事の第二工区が前記のとおり一五九・五メートルの区間にわたつていたことなどからすれば、訴外工務店は当初から本件簡易舗装部分を一時的に開放する予定であつたとみられること。

(5) 建設省の市街地土木工事公衆災害防止対策要綱(以下、建設省要綱という。)によれば、起業者及び施工者は、道路を掘削し、その箇所を車両の交通の用に供しようとするときは埋戻し、覆工等の措置を講じなければならない。この場合、前後の路面との段差は、三センチメートル以内にしなければならない、とされていること。

(6) 本件簡易舗装部分は、本件事故直後の昭和五一年一〇月一一日、本舗装が施されたこと。

以上のとおり認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  してみると、本件における道路管理の瑕疵の有無は、本件事故発生地点に局限せず、約八〇メートルにわたつて存在していた本件簡易舗装部分全体及びこれを包含する第二工区の工事状況全般を考慮に入れて決するのが相当であるところ、右事実によれば、本件段差は約二センチメートルから五センチメートルの深さがあつたにもかかわらず、その付近には工事標示板のほかは何らの保安施設も設置されていなかつたのであるから、かような状況の下においては、たとえ右第二工区の工事起点、終点付近などに工事標識、同標示板などが設置され、また現に工事進行中の部分には、相当数のバリケードが置かれ、夜間注意灯が点灯されていたとしても、なお本件道路の通常一般の通行車両(自動車、原付自転車、自転車)や歩行者が、本件段差に車輪を落し、ないしは車輪を擦られてハンドルをとられたり、つまづいて転倒したりするような交通上の危険性が存在していたものというべきである。前記のとおり建設省要綱に一応の基準として段差を三センチメートル以内に抑えるべきことが謳つてある事実も、右の判断を裏付けこそすれ、これと牴触するものではない。

そして、右のとおり本件段差の存在により事故の発生が客観的に予想しうる以上、本件道路は、道路として通常有すべき安全性を欠いていたものといわざるをえない。

(三)  なお、本件道路は比較的狭隘であつて、本件簡易舗装部分を一般通行の用に供さなければ、大型車同志の交差ができず、これに伴う交通の渋滞や危険の発生が予測されたことは前認定のとおりであり、また、本件簡易舗装部分に直ちに本舗装を施しても、重量車両の通過などにより沈下の生ずるおそれがあることは、前記(一)の(3)の事実から推認されるけれども、本件道路の施工者である訴外工務店としては、前判示のとおり当初から本件簡易舗装部分を一般通行の用に供することを予定していた以上、右部分が本舗装までの間に沈下することを考慮に入れたうえ、右部分と既設路面との段差を殆んどない状態にして開放すべきであり、しかもこれが極めて容易であつたにもかかわらず、訴外工務店がかような措置を講じたことを窺わせる証拠はない。また、もし訴外工務店が元来本件工事の許可条件に従い、一工区を三〇メートル以内にしたならば、これにより工事の能率が阻害されることは争えないけれども、簡易舗装部分に防護柵などの安全施設を設置して同所の通行を禁止しても、大型車同志の交差ができないことなどに伴う交通の渋滞や危険の発生は最少限に食い止めることができたものと解される。

以上の次第であつて、訴外工務店が前認定の態様で本件簡易舗装部分を一般通行の用に供したことが已むを得ない措置であり、本件事故の発生が回避可能性のない場合であると認めることはできない。被告県のこの点に関する主張は採用の限りでない。

(四)  被告県は、訴外工務店の本件工事を監督し、本件道路を管理すべき立場にあつたのであるから、以上によれば、被告県には、本件道路の管理につき瑕疵があつたものというべきである。

3  次に、本件事故発生の原因について判断する。

(一)  前掲甲第五、第九号証、丙第一号証の一ないし一四、成立につき争いのない甲第一、第七、第八、第一〇号証、証人石塚達郎の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる丙第一二号証と右石塚達郎及び前掲石塚妙子の各証言並びに証人椎橋建三、同近藤豊の各証言を綜合すると、次の各事実が認められる。

本件事故当時、千葉測候所において大雨注意報が発令されていたが、事故の直前には、本件事故現場付近の降雨量は普通であつた。亡靖爾は、自転車(十段式変速ギヤ付ドロツプハンドル車)に乗り下校途中、本件事故現場付近に差しかかつたが、その際、雨衣を着用せず、左手に本を三冊位所持して片手運転をしていた。折柄同所はやゝ上坂となつており、亡靖爾は本件段差の外側に沿つて本件道路の左側端を誉田駅方面から千葉市内方面へ向け進行していたところ、本件段差に右自転車の車輪を落し、あるいは落しそうになつて(そのいずれかは特定しえない。)、バランスを崩し、ふらつきながら本件道路の中央付近に出た。ところが、折悪しく同所を近藤運転の加害車(排気量約五〇cc)が対向してきて、本件道路の中央をやゝ越えた(亡靖爾側から見て)地点で転倒寸前の亡靖爾の自転車と衝突した。その際、近藤は時速約三〇キロメートルで、本件道路の左側端(前記側溝蓋を除く。近藤の進行方向から見て)から約一・六メートル離れて走行しており、また、亡靖爾運転の自転車を約二・六メートルの至近距離に至つて初めて発見し、急ブレーキをかけたが間に合わずこれと衝突した。亡靖爾は、右衝突により頭部を打撲し、頭蓋骨を骨折して即死した。

以上のとおり認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  右事実に基づけば、本件事故は、本件段差の存在と近藤の前方不注意に亡靖爾自身の片手運転による過失が相俟つて発生したものというべきである。従つて、本件段差の存在と本件事故の発生との間には、相当因果関係があるものと認めるのが相当であり、この点に関する被告県の主張も採用することができない。

五  免責の抗弁

本件事故の発生につき近藤に前方不注視の過失があつたことは前判示のとおりである。本件道路は見通しの良好な直線道路である(前認定のとおり)から、近藤としては、十分前方を注視していれば、より早い時期に亡靖爾運転の自転車を発見し、ハンドル又はブレーキの操作により本件事故の発生を未然に回避しえたはずである。上坂であつて、速度の出ない自転車が道路中央付近にふらついてきた本件の場合と、より高速の原付自転車などがいきなり飛び出してきた場合とを同断に論ずることはできない。

よつて、被告門脇の免責の抗弁は、その余の点について触れるまでもなく失当である。

六  損害

1  逸失利益 各金一、五三九万四、八一一円

前掲甲第二号証と原告俊哉本人尋問の結果によれば、亡靖爾は、昭和三五年一一月一九日生れの健康な男子であつて、本件事故当時満一五歳で高校一年在学中であり、将来大学進学の希望を有しており、かつその客観的可能性が十分にあつたことが認められる。

そこで、労働省の昭和五一年「パートタイム労働者を除く労働者の年齢階級別きまつて支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」中、新大卒の男子労働者の企業規模計画によれば、きまつて支給する現金給与額は金一九万五、五〇〇円、年間賞与その他特別給与額は金八三万〇、三〇〇円であるから、これを前提にして、亡靖爾の稼働開始年齢を大学卒業後である満二二歳、稼働可能年齢を満六七歳までとし、生活費の割合を五〇パーセントとみて、ホフマン方式により年五パーセントの中間利息を控除して、亡靖爾の得べかりし利益の現価を算出すると、次の計算式のとおり金三、〇七八万九、六二二円となる。

(19万5,500円×12)+83万0,300円=317万6,300円(年間総所得)

317万6,300円×(1-0.5)=158万8,150円(生活費控除後の所得)

25.2614-5.8743=19.3871(本件に用いるホフマン係数)

158万8,150円×19.3871=3,078万9,622円(逸失利益の現価)

従つて、原告らは相続により右金額の二分の一に当る金一、五三九万四、八一一円宛の損害賠償請求権を取得したものと認める。

2  慰藉料 各金二〇〇万円

原告俊哉本人尋問の結果によれば、亡靖爾の死亡により原告らが父母として受けた精神的苦痛には、はかり知れないものがあると窺われるところ、一方、前認定のとおり亡靖爾自身にも本件事故の発生につきかなり重大な過失があることその他本件口頭弁論に顕れた一切の事情を斟酌すれば、原告らの慰藉料としては、各自金二〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用 金八〇万円

原告俊哉本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第四号証、(前掲証拠欄の)第一一号証以下第四七号証の三までによれば、原告俊哉は、亡靖爾の死亡に伴い、葬式、接待、法要、仏壇購入、香典返しなどの諸費用として、合計金一八〇万三、四六四円を支出したことが一応窺われる。このうち、香典返しの費用は、本件事故による通常の損害とは認め難いからこれを除外し、更に領収書による裏付のないものやその支出と亡靖爾の死亡との関係が判明しないもの及び四九日の法要後の諸費用を除いて、その余の費用を加算すると、金八六万四、三六七円となる。

よつて、右事実と本件以外の一般の葬儀の際に通常支出を要すべき費用などを併せ考慮すれば、多少控え目に見ても、金八〇万円は、亡靖爾の死亡に伴い、原告俊哉において通常支出を要した費用と認めるのが相当である。

七  過失相殺

前判示のとおり亡靖爾にも、本件事故の発生について片手運転というかなり重大な過失がある。亡靖爾が、その所持していた本を前記自転車の収納篭にしまい、両手で自転車を運転していれば、本件段差にハンドルをとられたとしても、直ちに停止するか体勢を建直すなどの措置をとつて本件事故の発生を回避しえたはずである。

よつて、本件損害賠償額を定めるにあたつては、亡靖爾の右過失を斟酌すべきところ、右事実によれば、原告らの各損害額(但し、慰藉料を除く。)から六割を減じるのが相当である。

八  損害の填補 各金七五〇万〇、五七〇円

原告らが本件事故による損害として自賠責保険金一、五〇〇万一、一四〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。

よつて、原告らは、各自その二分の一に当る金七五〇万〇、五七〇円を各自の損害の填補として充当したものと認める。

九  まとめ

以上の原告らの各自の損害を差引する(円未満四捨五入)と、次の計算式のとおり、原告俊哉の損害が金九七万七、三五四円、原告佐和子のそれが金六五万七、三五四円となる。

(原告俊哉) (1,539万4,811円+80万円)×(1-0.6)+200万円-750万0,570円=97万7,354円

(原告佐和子) 1,539万4,811円×(1-0.6)+200万円-750万0,570円=65万7,354円

一〇  弁護士費用

原告らが本訴の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、弁論の全趣旨に照らし明らかであるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑み、原告らが被告ら各自に対し賠償を求めうる弁護士費用の額は、原告俊哉が金一〇万円、原告佐和子が金六万五、〇〇〇円と認めるのが相当である。

一一  結論

以上のとおりであつて、被告らは各自原告俊哉に対し、金一〇七万七、三五四円、原告佐和子に対し、金七二万二、三五四円及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和五一年一〇月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金を支払う義務があるところ、原告らの本訴各請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の各請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行及びその免脱宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本和夫)

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